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October 18, 2007

室生寺

女人高野。女人禁制であった高野山に対し、同じ真言宗で女性の参詣が許された室生寺は、そう呼ばれ親しまれています。なので、私はこの寺を訪れるにあたり、女性的な優しく柔らかな雰囲気を勝手に想像していたのですが、それは全く反対だったのです。

奈良県宇陀市、近鉄大阪線と並行する国道165号線の室生寺入口を南へ折れると、室生川沿いに山深い方へ向かって蛇行した道が続いていきます。とてもその先に名のあるお寺があるとは思えませんでしたが、暫くすると土産物屋や参詣客用の駐車場などが見えてきて、室生寺付近に辿り着いたことに気付かされました。私は駐車場に車を止め、そこで案内されたとおりに寺へ向かって歩いて行きました。
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道路と並行して室生川が流れているのですが、そこにかかる太鼓橋というアーチ型の橋を渡ると、その正面が表門です。長谷寺へ向かう参道は比較的賑やかなので、歩きながら段々お寺が近づいてくる雰囲気がわかるのですが、室生寺の場合は表門の前まできてようやくそのことに気付かされます。五木寛之の「百寺巡礼」では、「写真では大きく見えるけど実際はミニチュアのように可愛らしい」と室生寺の五重塔が紹介されていたので、寺の規模全体もコンパクトなのだと思っていたのですが、門の前に立っただけでそれとは違う立派な寺だということがわかりました。涼しげな川のせせらぎを背に、表門の向こうに目をやると、それとは対照的に厳格な世界が待っているようでした。

参詣者は仁王門から中に入り、鎧坂を上がっていきます。この鎧坂の階段を上がりながら、私は自分がここに持ち込んだ先入観が決定的に間違っていたと認識しました。階段の脇の山の斜面には、何本もの杉の木が天に向かって高くそびえたっているのです。その迫力は、まだ寺に入って間もないこの場所に緊張感を与えるのに十分でした。女性も参詣できるからといって緩い空気の寺であってはならない、そんな自戒の意気込みが伝わってくるようでした。

階段を上り終えると、そこには金堂があり、釈迦如来立像や十一面観音像など数々の像が並んでいたので、よく見たかったのですが、かなり奥まった位置だったので遠くを眺めるようでした。
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さらに階段を上がっていくと、真上に五重塔が迫ります。この下からの角度が、小さいけど大きく見えるアングルで、たいそう立派な建造物として目に映ります。屋外に立っている五重塔では日本一小さいそうです。
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五重塔のまわりは一番人が集まっていて、ここに至るまでの凛とした空気より少し穏やかに思えました。しかし、この先にはさらに厳しい道のりが続いていくのです。
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先を見やると、木立に挟まれた石段が延々と続いています。頂上の奥の院を目指して700段の階段を上るのです。他の寺を訪れたときに学んだのですが、長い石段はお参りの前に心を静めるために一段ずつ上っていくものだそうです。最初は駆け上がるように進み始めた私でしたが、それを思い出し、速度を緩め一段ずつ着実に石段を上がっていきました。石段は長い上に急で、最初の鎧坂よりもさらなる厳しさを訪れた者に課しているようでした。交通が発達した現在でさえも、山の中にあるこの地を訪れるのはいささか困難です。まして、昔の人、特に女性が室生寺を参詣するのはどんなに大変だったことでしょう。しかも、寺に入ってからも試練が待ち受けていようとは。私は止まることなく最後まで歩き続けましたが、途中で息が上がってしまいました。そんなとき、この石段が続く意味を私は考えていました。それは一歩一歩の確実な積み重ねの大切さか、それとも苦難を乗り越えた先に待っているものの素晴らしさか。石段の終わりが見えかけたとき、清水寺のような舞台造りの位牌堂が目の前に現れました。
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見事な造りだと感心していたそのとき、私はあることに気づきました。石段の最終局面は、各段が下を向いているのです。参詣者の疲労が頂点なはずのこの場所で、なぜわざわざ石段を滑りやすい向きに設置しているのか私は疑問に思いました。そして同時に、足を踏み外すことのないよう、これまでで一番注意を払いながら歩みを続けたのでした。野球の中継を見ていると、よく解説の人が「勝ったと思ったときが一番危ない」などということを言いますが、それと同じで、最後まで気を抜くなという戒めなのだと私は汲み取りました。

奥の院に辿り着くと、そこには陽の光が降り注いで、明るく見晴らしの良い場所でした。帰り、石段を下りる途中で、すれ違った年配の女性が「こんにちは」と声を掛けてきたので、「この先の石段は下を向いているから気を付けて下さい」と早速教えてあげました。60歳は過ぎているように見えましたので、あの急な石段を上るのは大変しんどそうでした。

寺を出て振り返ってみると、室生寺は木々に覆われ山と一体化していて、外からみたときに寺だとはわかりにくいと感じます。これまで数々の寺を見てきましたが、このようにひっそりと寺を構え、それでいて厳粛な空気を漂わせている寺は初めてです。先ほども述べましたが、これは「女性も参詣できるからといって緩い空気の寺であってはならない」、加えて「寺や参詣者を守らなければならない」ためであると私は思いました。

この寺を外から見たとき、室生寺を堀のように囲んで流れる室生川の穏やかな流れと、その向こう側の張り詰めた空気が相成って、内に秘めた力というのを強く感じます。室生寺は女性だけのための寺というわけではありませんが、寺全体が女性の強さを象徴しているようにも思えます。室生寺を訪れたことは、この旅をとても印象的なものにしてくれました。

室生寺を出て太鼓橋を渡ると、橋本屋という休憩処があったので、気になって寄ってみました。何が気になったかというと、室生川沿いに座敷が配置されていたので、川のせせらぎを聞きながら休憩ができるということです。早速、窓側を陣取って、川の方へ身を寄せて外を眺めてみました。夕方の一日が終わりかけようとしている良い時間でした。川が流れる音は時間の流れる音のようでもありました。夢中で食べた天ぷらそばとぜんざいは幸せなくらい美味しかったです。さあ、このあとは東京まで600キロの帰路が待っています。
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Comments

超長距離ドライブお疲れさまでした。
写真、素晴らしいですね。
行ってみたくなりました。

Posted by: shikakumaru | October 19, 2007 at 04:03 AM

次は山形県の山寺へ行ってみたいのですが、ガソリンがまた値上げみたいですね。

Posted by: ひろっぺ | October 19, 2007 at 06:48 AM

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